禁煙外来
オフィスにいながら
「禁煙外来」に通える?
OBC社内診療所の
新しい取り組みとは
OBC本社に設立された社内診療所。2024年には新たに「禁煙外来」をスタートし、社員の禁煙を後押ししていく。OBCが「禁煙」に力を入れる理由や診療所の目指す姿について、代表取締役社長の和田成史と、社内診療所院長の和田悠起子に聞いた。
左:代表取締役社長 和田成史
1975年 立教大学経済学部経営学科卒業。1976年、公認会計士第2次試験合格。1980年3月公認会計士登録、6月税理士登録。
同年12月に株式会社ビック・システム・コンサルタント・グループ(現株式会社オービックビジネスコンサルタント)設立。
1999年に株式公開、2004年に東証一部上場を果たす。
2014年、公共の利益に貢献した人物に贈られる藍綬褒章を受章。
一般社団法人ソフトウェア協会(SAJ)名誉顧問を務める。
右:OBC社内診療所 院長 和田悠起子
日本医師会認定産業医。日本抗加齢医学会専門医。健康経営エキスパートアドバイザー。2014年東邦大学医学部医学科卒業。産業医として中小企業から、中堅大手まで20社を超える様々な企業で業務に従事。大手企業の統括産業医も務めている。2022年OBC社内診療所を開設。
健康を損ねる前に。禁煙への一歩を社内診療所から
OBCの社内診療所では、2024年に「禁煙外来」をスタートしました。これまでの社内の喫煙事情について教えてください。
和田悠起子院長(以下、院長):OBCの喫煙率は全国的平均よりは低いとはいっても、20代と比べ30代後半以降はまだまだ喫煙者が多いのが現状です。
和田成史社長(以下、社長):当社が入っているビルでは、喫煙が全面的に禁止されています。屋外の一角に喫煙エリアが設けられているので、タバコを吸いたい人はエレベーターで1階まで降りて外へ行かなければなりません。席を立って戻って来るまで結構時間がかかるので、喫煙者にとっては気まずい環境だと思いますね。
和田社長もかつては喫煙者であり、15年ほど前に禁煙に成功されたそうですが、禁煙してからどのような変化を感じましたか。
社長:一番変わったのは、仕事の生産性だと思います。喫煙していた頃は、一つ仕事を終えると一服して「さて、次は何の仕事に取り掛かろう」と考えるのが常でした。タバコを吸ってリラックスすることが、仕事の潤滑油になると思っていたんです。ところが、いざ禁煙してみると、一つ仕事を終えたらスムーズに次の仕事へと移れるので、集中力も途切れず、1日にこなせる量もグンと増えることが分かりました。
和田院長は、医師として禁煙にどのようなメリットがあるとお考えですか。
院長:喫煙によって、がんや心臓疾患のリスクが高まったり、味覚が鈍くなったりすることは皆さんご存知だと思います。反対に、禁煙すると内臓機能が改善したり、味覚が戻ってきたりするなど、メリットがたくさんあります。喫煙者の方は、そのような喫煙のデメリット/禁煙のメリットを理解されているかと思いますが、それでもやめられないのがタバコの悩ましいところなんですよね。
タバコをやめたいけれど、自分ではやめられないと悩んでいる方が禁煙に向けて踏み出せるように、社内診療所で「禁煙外来」を始めたんですね。
院長:その通りです。私が医師として伝えたいのは、健康は失って初めて、その大切さに気づく方が多いということ。病気になった方の多くが、「まさか自分が病気になると思わなかった」「健康状態を気にせず働けるって幸せなことだったんだ」とおっしゃります。社員の皆さんにはそういう思いをしてほしくないので、健康を損ねる前に、ぜひ社内診療所で相談していただきたいですね。禁煙外来を探して、自分で予約して通院するのは、結構ハードルが高いと思うんですよ。それを社内で、就業時間内に受けられるのは大きなメリットだと思います。
禁煙成功の秘訣は「強い意志」と「正しいストレス解消法」
社長は、どのようにして自身の禁煙を成功させたのでしょうか。
社長:きっかけは、歳を重ねて無理が利かなくなり、健康のありがたみに気づいたことでした。1日にかなりの量を吸っていましたが、やめようと決意してから禁煙するまで、それほど時間はかかりませんでしたね。一度、禁煙外来を訪れ、ニコチンパッチをもらって、そのまま一度も吸わずに今に至ります。
院長:社長のように、ニコチンパッチなどの補助薬で改善する方もいらっしゃいますし、カウンセリングのみで改善する方もいらっしゃいます。喫煙歴が短ければ短いほど、若ければ若いほど、補助薬を使わなくても禁煙に成功しやすいですね。これまで禁煙外来を受診した社員の中には、「喫煙をするとこういうリスクがありますよ」と伝えただけで、禁煙に成功した方もいらっしゃいました。喫煙歴の長い方も、今から禁煙して遅いということは絶対にありません。
和田院長は、実際に禁煙治療にあたる際、どんなことを重視していますか。
院長:まずは、「禁煙したい」という強い気持ちがあるかどうか確認します。それがなければ、どんなにいい薬を使ってもあまり効果がありません。もちろん、強い気持ちがあったのに、ストレスが溜まったり、飲み会の雰囲気に呑まれたりして、ついタバコに手を伸ばしてしまう場合もあります。そういう時は、なぜ吸ってしまったのか、状況や気持ちをヒアリングして、寄り添いながらもう一度禁煙を目指していきます。
禁煙を始めた方が、最もつらいと感じるタイミングはいつなのでしょうか。
社長:人によって異なると思いますが、私の場合は、最初の1週間が一番つらかったです。1週間、1ヶ月、3ヶ月、半年、1年……という風に、次の目標を立てて達成するうちに、いつの間にか吸いたいという気持ちがなくなっていきました。「一度吸ってしまっても、またすぐに禁煙できる」という考えでは一生禁煙できないので、「これを最後にしよう」と強い意志を持つことが大切です。あとは、ストレスを溜めないことですね。
院長:喫煙者の中には、タバコでストレスを解消できると思っている方がたくさんいらっしゃいますが、それは大きな間違いです。実は、タバコを吸っていること自体がストレスになっていて、また吸いたくなるという悪循環に陥っているんですよね。ストレス解消には良い方法と悪い方法があり、例えば運動をしたり、呼吸を深めたりするのは、成熟した良いストレスの解消法と言われています。一方、タバコを吸ったり、暴飲暴食したりといった行動は、悪いストレスの解消法です。喫煙歴が長ければ長いほど、命を縮めることにもつながりますので、体にとってプラスになるストレス解消法を見つけていただきたいですね。
目指すのは、気軽に使えて親しみやすい診療所
社内診療所を設置している企業は珍しいと思いますが、なぜ社内に診療所をつくろうと思われたのでしょうか。
社長:健康経営を推進するにあたり、体の健康と心の健康、両方をサポートできる仕組みが必要だと考えました。社内診療所を設置すれば、心身の不調に対する対応はもちろん、薬を処方したり、感染症のワクチン接種をしたりといったことにも対応できます。ちょっとした不調や不安を感じた時に頼れる場所を用意することで、社員一人ひとりのモチベーションや、心理的安全性を高めることにもつながると思っています。誰でも気軽に利用できるよう、親しみやすさや利用しやすさにはかなりこだわっていますね。
社内診療所を利用したい場合は、事前に予約が必要ですか?
院長:基本的には保健師に連絡をして、予約を取っていただくことになっています。ただし、急に不調を感じた時は、診療所に直接来ていただければ、予約の合間に診察を行います。どのような症状でもまずは相談してしていただいて問題ないですし、薬に関しても難しいものでなければ院内処方が可能です。ただし、診療所では対応できない難しい症状や、糖尿病や高血圧の薬など長期化するものに関しては、他の病院やクリニックをご紹介する場合もありますね。その際の紹介状も、診療所でご用意できます。
社内診療所がオープンしたのは2022年4月でしたが、社員の皆さんの利用状況はいかがですか。
院長:最初は皆さん遠慮していたこともあり、そこまで利用者が多くありませんでした。2023年に保健師を迎えてからかなり雰囲気が変わり、相談件数が5倍に増えましたね。実は、社員の皆さんが自ら診療所を訪ねて来る以外に、こちらからお呼び出しするケースもありまして。毎年、社員全員分の健康診断結果をチェックして、数値が悪い場合は、生活や食事、運動の指導などを行っているんです。そこまできめ細かく見られるのも、社内診療所ならではだと思っています。
社内診療所は、まさにOBCの「健康経営宣言」が体現されている場所なんですね。オンライン診療にも対応しているとのことで、これからますます相談数が増えるのではないでしょうか。
院長:そうですね。本社だけでなく、全国10支店にいる社員も、オンラインで健康相談が可能です。「こういう病気になってしまったけれど、働き続けることはできますか」「この手術の場合、休みはどのくらい取ればいいですか」など、日々さまざまなご相談がチャットで届きます。また、診察行為や治療行為は社員のみになりますが、健康相談などは社員のご家族まで範囲を拡大して受け入れています。例えば「今日、子どもが熱を出して、咳はないんですが病院に行ったほうがいいですか?」といったご相談が、チャットで届くこともありますね。
社長:診療所が気軽に利用できる場所として認識されているのは嬉しいことですね。社員がより安心・安全に、生き生きと働ける環境づくりを目指して、今後も社内診療所と協力し、健康経営を推進していきたいと思います。
【取材日:2024年1月16日】